公募美術団体 一般社団法人 旺玄会

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    絵画展に関するQ&A
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    私の絵画制作
    常任委員 中村章子
    常任委員 斎藤寅彦
    常任委員 杉田英雄
    常任委員 田中紘子
    常任委員 加藤良子
     

    技法講座
    銀箔を焼いて、制作に生かそう
    デジタルアートへのお誘いiC
    デジタルアートへのお誘いiB
    デジタルアートへのお誘いiA
    デジタルアートへのお誘いi@
     技法講座第3回は、Photoshopを用いた製作技法の核心に迫ります。偶然性が予想してなかった新しい可能性を開き、その蓄積が又新しい可能性を生み出し、当初は予想もしていなかった、期待を上回る作品が誕生することになります。そして、その絵肌?は、水彩画風あり、コラージュ風あり、油彩画風あり、様々なアートの様式が選択できます。
     しかし、そこに至る道は、決して平坦ではありませんが、今回の講座をお読みになることで、Photoshopの神髄に限りなく接近することになります。是非ご一読下さい。
    「デジタルアートへのお誘い」 第3回 Photoshopの機能をアート制作に有効に活用する事例研究
    はじめに
    3-1 Photoshopは偶然の発生器だ
    3-2 Photoshopはシミュレータだ
      3-2-1マスク機能による構成のシミュレータ
      3-2-2効果を見極め、納得度を上げるためのシミュレータ
    3-3 乱れや揺らぎを重ね合わせる深みや複雑感の演出
    3-4 知識と経験の積み重ねを蓄積し、必要に応じて再現できるようになったこと
      3-4-1 やり直しがきく機能、操作履歴を残す機能、操作手順を記録し再現させる機能
      3-4-2 ラブラリー(部品素材、操作手順の蓄積など)がその後の制作をさらに面白くする
    3-5 Photoshopを使いこなすには作品制作への粘り強いこだわりが必要
    むすび
    * 今後の掲載内容と予定
    はじめに
     前回では、Photoshopが持つ様々な機能の中からアートツールとして私が着目する機能を下記の5点に集約しました。@色調整、明るさ調整などの色調補正のための基本機能、Aフィルタ機能、Bマスク機能、Cレイヤ合成機能、D複数回のやり直しがきくヒストリー機能など、です。
     シリーズ第3回ではアート制作するという視点からどのようにこれらの機能を活用すれば効果的なツールとして威力を発揮させることができるか、まさにPhotoshopの肝を述べたいと思っています。それぞれが、すぐれものの機能であることは間違いないのですが、それだけに留まりません。さらにはパラメータを調整したり、これらを組み合わせたりする中で思いがけない造形や情景に遭遇できる「巡り合わせの発生器」の構成要素だということです。私の作品を実際に見ていただく中で、「Photoshopの機能をアート制作に有効に活用する事例研究」としてとらえていただければうれしい限りです。これらはまさに私の「アート制作の面白さ」論とも言えるものです。
     ただ、ご注意いただきたいことは、あくまで私の場合の事例に過ぎないということです。Photoshopには千差万別の入り方がある中でほんの一例に過ぎません。また、きっかけとしてその入口に立った後もその先の使い方には、あるべき道があるわけではありません。当初考えていたテーマからいつの間にか外れて道に迷ってしまいおよそテーマとは関係ない思いがけない方向に作品制作が進んでしまったということはよくあることです。でもそこでたまたま遭遇した場面を大切にすること、そしてそこを起点にしてまた新たな道探しをすることこそが、その面白さだと思っています。
    3-1 Photoshopは偶然の発生器だ
     アート制作の面白さのかなりの部分は、偶然によってもたらされると言っても過言ではないとさえ思っています。それが出発点となって次の想像が触発されるとか、別のイメージがさらに湧いてくるということです。従ってほとんどの場合は、自分が当初から意図していた経路から外れることはよくあることです。予め意図した設計図通りにアートが制作されたのでは、制作の過程の意味がないとさえ思えます。「描きたいものがあるから描くのだ」と憚ることなく主張する作家を多く見てきましたが、それは結果的にはそう言えるのかもしれませんが、制作の過程の重要性を無視した言い方です。当初、表現したいと考えたテーマは、作品制作のきっかけを与えてくれたと考えていいと思います。そこから制作過程も、作品自体も一人歩きするものです。ご本人が考えた以上に思いがけない方向に進んでいいのです。
      Photoshopを使う上で本当に偶然があるのかと思われる向きもあろうかと思いますが、本当にあるのです。基本的には、プログラムされた論理通りにしかコンピュータは動かないのですが、人の思考をはるかに超えた領域でも仕事をしてくれるのです。ほんの一例としてレイヤ合成機能の例で言えば、1枚のレイヤを重ねる際に合成モードが単純な加算から、乗算、減算など26種類もあります。その重ね合わせの重みづけ(不透明度)は0-100%まで連続的に変えられます。それが3枚のレイヤになれば、その組み合わせはすぐに天文学的な数になります。仮に100%を10%毎に10レベルと仮定しても、3枚のレイヤを重ねると(260)3乗で約2000万、4枚だと約46億の場合があることになります。
     仮に50%に不透明度を固定して、合成モードを順次変えていくだけで、すぐに自分の想像を超えた領域の全く意外な画像に遭遇することがよくあるのです。一度、全ての合成モードを切り替えて効果を実感するといいと思います。
     実はこれが偶然(正確には偶然ではなく全て手順が辿れる一つのケースなのですが、以下偶然とします。)を生み出す原動力・エンジンになっています。それなら次はこうしようと次の思考に繋がります。また、もしこれを再現したいと思えば、忠実にたどった過程と環境設定を記録しておけば、何度でも再現可能ですし、その過程を他の画像に適用することも可能です。最初は闇雲に条件を探ることになりますが、それが積み重なるとその手順の道筋が定式化して見えてきます。単に偶然を生むことだけが目的であるとすればサイコロと同じで、あまり興味が沸きませんが、経験の積み重ねが次の作品作りに活かせるということです。予測可能性と予測不可能性がうまくバランスしていることが肝なのだと思います。
     解説本やマニュアルというのは、機能を詳しく説明してくれますが、ある特定用途---今回のデジタルアートの制作のためには、それに関わる人がまず全般的にPhotoshopを使いこなした上でさらに自分で使い方を勝ち取るものと考えられがちですが、その本質を理解してかかれば、いきなり入ることが出来るのではないかと私は考えています。ここをスタート時点とすれば、さらに時間を掛けじっくりと向き合って行くことでその価値は無限と言える程に広がり深まって行くものと確信しています。そこまでくれば、作家にとってかけがえのない支援ツール(共同制作者)を得たにも等しいことになります。
    ■素材画像01(左側から)
    素材101 市販の和紙の質感素材01
    素材102 Web上から入手した布の質感素材02
    素材103
    新聞紙コラージュに絵具で着色してデジカメから取り込んだ質感素材03
    素材104
    3DCGソフト(Vue)で制作した3Dモデルのレンダリング画像(オリジナル)
    作品例101
    ・題名:日々の努力 Stack of Effort
    ・サイズ:F50縦 H117 X W91cm
    ・未発表作品(2015/03/16)
    ■説明:3DCG作品を版画の雰囲気に仕上げる目的で質感を試行錯誤した。レトロさが融合した版画の雰囲気に仕上がり印象的な作品に仕上がった。
    ■技法の説明:
    レイヤの順序、合成モードの種類、重み(不透明度%)などをいろいろ試行錯誤して、納得度を追求した。レイヤを上から、素材101を「乗算」(82%)で、素材102を「除算」(2%)で、素材103を「輝度」(9%)などで、素材104に対してレイヤ合成した。
    3-2 Photoshopはシミュレータだ
     3-2-1マスク機能による構成のシミュレータ
     レイヤにマスクを適用し画像のある部分を一つのオブジェとして切り取れば、そのオブジェは、一つの独立した平面オブジェとして取り扱え、大きさ角度や形状などが自在に変更でき、自在に配置することが可能です。コラージュする時にはとても便利で、レイヤをオブジェの数だけ使ったりします。切り抜いた新聞紙などをオブジェとして大きな紙の上に並べて試行錯誤する従来のやり方に二度と戻る気にはなりません。Photoshopはそのために生まれてきたのではないかと思えるほどです。
     従来の手作業で絵画を制作する際には、一度描いたものを元にもどすことは容易ではありません。まして、部品の全体構成まで変更するとなれば一大事です。この構成レイアウトのシミュレーションを容易く実現でき、作業効率(偶然の場面との遭遇や、納得行くまでの満足度を挙げるための試行錯誤の頻度)を格段に上げることができます。大きさ、重ねる順番、角度などは自由自在です。従来から絵画制作を手がける作家も最近は、制作過程でPhotoshopの助けを借り、全体構成の完成度を上げた上で、絵画制作に取り掛かる人が増えているのも頷けることだと思います。
     1920年代超現実主義(Surrealism)運動が盛んな頃に、私が敬愛するエルンストがコラージュをアートの一技法として提唱したと言われますが、これも偶然の組み合わせを手がかりにして作者の意図とは関係なく新しい発想を生み出そうとしたと考えられています。そこに出現する思いがけない場面の発現の中に作家の行動に大きな影響をもたらす「無意識」を見ようとしたと言われます。その意外性や、面白さを感じて新しい作品制作のきっかけを見出すだけでも楽しくなると思いませんか。
     3-2-2効果を見極め、納得度を上げるためのシミュレータ
     前節で、Photoshopは偶然を生み出す原動力・エンジンである、と記述しました。正確には偶然ではなく全ての手順が辿れる一つのケースだとも記述しました。このことは、Photoshopがシミュレータであるということと裏腹の関係にあります。その偶然に遭遇した時に次に考えることは、その時の環境設定の条件を振らせてみたらその偶然がどう変化するのだろうか、ということになりませんか。レイヤを重ねる際の合成モードの種類を振らせて、もっと驚く画像の出現があるのではないかと考えます。また、その時のレイヤの不透明度を0〜100%まで振らせてみて、もっと最適なポイントを探ろうとします。これは、レイヤ合成機能に着目した時のシミュレータとしてのほんの一例に過ぎません。色調補正機能やフィルタ機能でも同様に、設定しているパラメータを調整して周辺の条件を探ろうとするのは当然の行為だと思います。実は、私のPhotoshopの使い方の中で、一番多くの時間を占めるのがこの試行錯誤的な行為だと思います。
     その時に、一体何を判断基準にして条件を選択しているのか。それは、Photoshopの使い手のセンス、好み、と心地よさ(私はこれらをまとめて納得度と言います。)以外の何ものでもありません。絶えずその納得度を高めることに集中して、試行錯誤と条件選択の積み重ねるのがPhotoshopを使ったアートの制作過程そのものだと思っています。
    ■素材画像02(左側から)
    素材201 コラージュに水彩絵具で彩色して作った質感素材01
    素材202 水彩絵具で描いた質感素材02
    素材203 白黒の縞模様に波形変形フィルタを適用して制作した版画的な模様柄
    素材204 縞模様をワープ機能を使って変形処理したデザイン的な模様柄
    素材205a Painter(Drawing Software)上で仕上げた自作デッサン
    素材205b 204aをイラストレータでトレース処理した素材画像
    作品例201
    ・題名:夢見る Dreamy Eyes
    ・サイズ:A3ノビ縦 H48 X W33cm
    ・個展・デジタル版画小品展--顔がある作品集--
    (2010/2/1 カフェ・ド・モミュ(東京・渋谷))
    ■説明:Painter(Drawing Software)上で仕上げたデッサン作品をベースに、デザイン的な模様柄を組み合わせた。遠く将来を見つめたような真剣な表情を作品にしたかった。
    ■技法の説明:
     レイヤの順序、合成モードの種類、重み(不透明度%)などをいろいろ試行錯誤して、納得度を追求した。レイヤを上から、素材201を「彩度」(35%)で、素材202を「オーバーレイ」(56%)で、素材203を「ソフトライト」(52%)で、素材204を「通常モード」(100%)で、素材205bに対してレイヤ合成した。
    3-3 乱れや揺らぎを重ね合わせる深みや複雑感の演出
     油彩の世界で、茶色系の不透明な色彩に油を多目に含んだ透明度の高い絵具で何層にも塗り重ねるグレーズという技法があります。油彩画の醍醐味として知られています。透明なセロファンを何層にも重ねて、色に濁らせることなく深みを与えることに対応します。レンブラントの作品を観る度にそのグレーズ技法の極地に魅せられたご経験があるのではないかと思います。しかしこの技法は、実に手間のかかる技法です。透明度の高い絵具を塗っては乾かしてさらに描き起こす、・・・という手順を何度も繰り返すことになりますから、何週間もかかるのはざらだと言います。
     デジタルアートの世界でもレイヤの不透明度を小さい値に設定(セロファンの厚さを薄くした素材画像を組み合わせることに対応)して、質感の元になる画像を幾つも重ねて、合成モードをいろいろと変化させながらその影響の最適点を探っていく行為にグレーズ技法との共通点を感じています。原理的には全く別物であっても不思議なことに質感のレイヤを積み重ねれば重ねるほど、深みや複雑感の演出を容易に経験することができるのです。即座にその効果をその場で試せるのですからこの機能を活用しない手はないと思います。

     私の場合には作品制作の大部分を3DCG(3次元のコンピュータグラフィック)の世界でやっています。立体の世界から仮想カメラである角度から切り取った平面画像(レンダリング画像という)が私のアートの出発点になります。その画像はどちらかといえば、いかにもデジタル処理しコンピュータで作ったのが見え見えの画像になりがちです。今の普通の人の感覚では、いかにもデジタル処理した画像には、あまりアートという感覚を持たれないのが現実でしょう。そうであれば、いくらそこに斬新な今まで見たことがないようなすばらしい世界観を実現したとしてもなかなか鑑賞者はアートとしての評価がどうかと捉える、考える以前に「これはコンピュータが作ったのでしょ」ということで門前払いされてしまうことになりがちです。ここが、私がコンピュータ臭さを極力消し去り、自然観を感じさせるリアリズムの追求を作品制作のワークフロー上で大切にしている所以でもあります。私の場合はPhotoshop上でそれを考えるのが重要な局面、最後の砦になっています。アートのためのツールとしてPhotoshopの一番の価値、ポイントと感じるのがこの部分です。例えば、自然界では、本当の直線や、円や、シンメトリーはないと考えたほうが自然です。拡大してみればそこには必ず乱れや揺らぎが含まれています。一見直線に見える水平線や地平線については言うまでもありません。その自然の揺らぎが人に安心感を与えるのは事実だと思います。一方、揺らぎに覆われた絵画をいつも見ていたいとは思いません。ゴッホの揺れた道の上に歪んだ建物があるような作品ばかり見ていたら気がおかしくなります。アートの素材としてそれらの要素をどの程度まで入れ込むかは程度問題です。そこはアーティストのセンスと感覚の問題だと思います。
    ■素材画像03(左側から)
    素材301 墨汁と水彩絵具を組み合わせて作った質感素材01
    素材302 墨汁とアクリル絵具を組み合わせて作った質感素材02
    素材303 3DCGソフト(Vue)で制作した3Dモデルのレンダリング画像(オリジナル)
    作品例301
    ・題名:潜在意識 Subconscious
    ・サイズ:F30縦 H91 X W73cm
    ・第76回旺玄展 上野の森美術館賞受賞作品
    ・(2010/5/12 上野の森美術館(東京・上野))
    ■説明:無意識のうちに進行するいろいろな葛藤(相反する事象)を構成した。「動」と「静」、「安定」と「不安定」、「外見」と「内心」などなど・・・。それらはあたかも作者自身が、葛藤しながら進行する作品の制作の過程を表しているかのようだ。
    ■技法の説明:
     レイヤの順序、合成モードの種類、重み(不透明度%)などをいろいろ試行錯誤して、納得度を追求した。レイヤを上から、素材301を「ソフトライト」(35%)で、素材302を「ハードライト」(24%)その他で素材303に対してレイヤ合成した。
    3-4 知識と経験の積み重ねを蓄積し、必要に応じて再現できるようになったこと
    3-4-1 やり直しがきく機能、操作履歴を残す機能、操作手順を記録し再現させる機能
     1996年発売のPhotoshop 4.0では、色調補正の設定をレイヤに記録する調整レイヤのほか、一連の操作や設定を記録し他のファイルに適用できるアクション機能が搭載されました。1998年発売のPhotoshop 5.0では、操作履歴を記録するヒストリー機能が新しく装備されました。
     これらによって、適用した加工・編集操作を複数回遡ってやり直したり、繰り返したりが出来ることになりました。いわば、工程を横断的に行き来するシミュレーションができるということ、そして、気に入った操作履歴を知識として保存し自動操作手順として残すこと(アクション機能)もできるようになりました。つまり、制作過程とその経験を蓄積することができる、その積み重ねを繰り返すことにより制作過程を発展成長させることができるということになったことを意味します。
    3-4-2 ラブラリー(部品素材、操作手順の蓄積など)がその後の制作をさらに面白くする
     私がデジタルアートの作品制作上、最も大切にしているものの一つが、ライブラリーの蓄積・活用と充実ということです。ライブラリーとは、Photoshopでの制作過程を支援する部品や素材などの自作の資源のことです。最終作品とそこに至るまでの経過的な作品群はもちろんその根幹です。Photoshopのファイル形式には、レイヤ構造から各種の環境設定、パラメータ群が含まれているので制作過程が即座にわかります。つまり一連の定式化した操作手順情報を含んでいるということです。ということは、経過的な作品を再度の出発点にすれば、また別の作品への展開が図れる可能性があるわけです。ライブラリーが充実すれば、操作手順がさらに高度化し成長する所以です。
     また、一度作ったり、編集した素材部品も背景画像、質感画像も分かりやすく整理してライブラリー化しておくことはとても大事なことだと思っています。それらを実効あるものにするためには、ライブラリーを絶えず一覧できる環境を作者自身が確保し、それを絶えず活用しようとする姿勢が欠かせないと思います。それがなければ無用の長物になってしまいます。
     気に入った質感画像を作品に組み合わせることは常套手段です。質感画像のライブラリーは特に大切にしたいと思っています。今や、Photoshop上のレイヤに取り込みさえすれば、何でもデジタルアートの素材になるわけですから、例えば街中で面白い質感を発見すればデジカメで撮影して保存しておきます。アナログ技法で制作した絵画、手書きのドローイングはいい素材になります。スキャナーで取り込むことはもちろん、今やデジカメで、自分の作品を撮影して取り込めば簡単な話です。また、水彩絵具などを使っていろいろな質感ライブラリーを自分で作るのもいい方法だと思います。
    3-5 Photoshopを使いこなすには作品制作への粘り強いこだわりが必要
     操作条件を闇雲に振らせて、気に入りそうなイメージを手当たり次第に探って行くのも一方法ですが、あまり効率がいい方法とは言えません。仮にPhotoshopを使って、気に入った写真を出発点にして油絵的な作品を仕上げたいと考えたとします。例えば、油彩フィルタ機能を使って、その設定一つで写真を油絵風の絵画を得ることができるかのように言われたりしますが、そうものごとは簡単に解決しません。ましてや作者の納得度まで考慮すれば、他の種類のフィルタ機能をさらに組み合わせてもっと自分のイメージに近づけようとしがちです。そうなれば設定の組み合わせは、一気に自分の想像から外れた領域にまで達して収集がつかなくなるものです。
     いきなり泥沼にはまる前に、最初は機能を少しずつ足し算しながら設定パラメータを振らせてその効果を確認し手探りを繰り返していくことが肝要だと思っています。その過程で面白い条件に一度巡り合えたらしめたものです。Photoshopの標準フォーマットでファイルを保存すれば、レイヤの構造から、適用したレイヤの重み(不透明度%という形で残る)、適用したフィルタ機能まで全てを保存することができるのです。気に入った画像を得るまでには、長い時間の試行錯誤が必要なのですが、作品制作への粘り強いこだわりがあればそこで得られる満足感の方がそれまでの苦しみよりはるかに大きいものに思えるはずです。
     このような試行錯誤を繰り返すことにより、ある程度、操作の経験と勘を蓄え条件を探るのに慣れが出てきます。それらの操作はだんだんと定式化した自分流のやり方に変わって知識、経験として蓄積してきます。そうなればしめたものです。Photoshopを使いこなすには努力と相当な忍耐力が必要だと覚悟を決めて、絶えずツールに寄り添わないとコツは見えてこないと思います。
     ただし留意したいことは、操作者である作者が環境設定やいろいろな条件を決めて気に入った画像を選び、操作を選択していく過程をPhotoshopは決して支援してくれません。結局は、自分でアートのスキルとセンスを不断に高める努力を通して自分の判断基準を確立していくしかありません。でも作品の制作過程で、とても強力な助人がいつもそばに控えてくれているようなものなのです。
    ■素材画像04(左側から)
    素材401 幾つかの水彩絵具を使った質感画像を組み合わせて作った質感素材01
    素材402 Web上から入手した質感素材02
    素材403a 自作の手描きドローイング
    素材403b 401aを彩色しIllustratorに取り込んでトレース処理した
    作品例401、402(左側から)
    ・題名:逞しく生きる Live Hardily
    ・サイズ:A3ノビ縦 H48 X W33cm
    ・個展・デジタル版画小品展--顔がある作品集--
    (2010/2/1 カフェ・ド・モミュ(東京・渋谷))
    ■説明:この老婆の表情がとても気に入り、それをうまく表現できたらと思っていた。深く刻まれた顔のしわが人生の年輪と逞しく生きてきた証を表しているように思えた。
    ■技法の説明:
    作品例401:レイヤの順序、合成モードの種類、重み(不透明度%)などをいろいろ試行錯誤して、納得度を追求した。レイヤを上から、素材401を「差の絶対値」(10%)で、素材402を「オーバーレイ」(40%)で、素材403bに対してレイヤ合成した。
    作品例402:作品例401をさらに「油彩フィルタ」、彩度調整などを加えて、深みのある油絵的に仕上げた。
    むすび
     「Photoshopの機能をアート制作に有効に活用する事例研究」としてどれだけ読者の賛同を得られたかは分かりませんが、結局は、偶然に出現した場面をとらえてそこを出発点にして自分の想像力を全開にして試行錯誤を繰り返しながら納得度を高めていく過程をどれだけ積み重ねて経験を蓄積するかに全てが掛かっています。Photoshopはその時、操作者をびっくりさせるような偶然をより高い頻度で提示してくれたり、いろいろな選択肢を効率よく提示して最大限の協力を惜しまない共同制作者としての働きをしてくれたりするのです。Photoshopの詳細な機能を片端から理解しようとするよりも、自分の作品制作に今、役立ちそうな必要最低限の機能で、作品制作の過程で何をしたいのかを試行錯誤するところから入ったらどうでしょうか。五里霧中から今まで隠れていた景色が見えるようになって行くのではないかと思います。
    * 今後の掲載内容と予定
      (第4回) デジタル表現を自分のアートにして行くにはどういう心構えが必要なのか、どの
      ようにステップアップを踏めばいいか。
      (第5回)デジタルアートの今後はどうあるべきか、どういう可能性があるか。
      (第6回)未定。いいテーマがあったら考えます。
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