公募美術団体 旺玄会は公募展「旺玄展」への出品者を募集しております。
よりよい作品作りに技法の研究は欠かせません。
これから、作品制作の技法の中から、お役に立ちそうなものを選んで、ご紹介します。担当するのは、旺玄会の第一線で制作している現役作家たちです。
取り上げる技法分野につきましては、当面旺玄会の事務局で選定いたしますが、今後は皆様のご希望を取り入れて参りたいと思っております。
第1回目は、デジタル絵画を取り上げます。「デジタル絵画」とは、コンピュータを使って制作する絵画のことです。無論旺玄会は、大部分が油彩画、水彩画などの洋画、日本画、版画を制作する人達で構成されていますが、版画部門の中に少数ながら「デジタル絵画」を制作している人達がおり、年々その作品は、長足の進歩を遂げつつあります。
デジタル絵画が応募作品として登場した当初は、審査員たちの戸惑いもありましたし、既存の絵画部門から、「こんなものは絵ではない」という強い反発もありました。
しかし今日、旺玄展の壁面で見られるこれらデジタル作家の作品は、油彩画家や木版画家が脱帽せざるを得ない水準に達しており、しばしば受賞の対象ともなって、堂々と会内の市民権を獲得するに至っております。
ということで、今回は、デジタル絵画の領域で、わが国でもトップレベルにあると評価されている旺玄会の小花春夫委員に、「デジタルアートへのお誘い」と題して、技法の紹介と、今後の展望などを執筆して貰うことにしました。
ご一読の上、あなたも、デジタルで旺玄展にチャレンジして見ませんか。
皆さんは今、最先端のデジタルアートを制作しようと思い立ったら、家庭でその環境を比較的安価に手に入れられるすごい時代にいるのだと自覚すべきです。
今や、デジタル技術を活用すれば作れないアートはないのではないか、と思えるほどにデジタルアート(デジタル技法を活用して制作するアート)制作にうってつけのハードウエア―(以下ハード)、ソフトウエア―(以下ソフト)そしてこれらを支える基盤のインターネットの環境が充実した、とても恵まれた時代にあると言って良いと思います。
これから出て来る新しいハードとソフト、新しいプリンター技術、新しいメディア(素材)技術をアートにいち早く活用でき恩恵にあずかれる充実感はたまりません。今まで誰もやったことがない新しいアートを制作できるのではないかというワクワク感と醍醐味は何ものにも代えがたいものがあります。
私が初めて自分のデジタルアートに触れた10数年前のことに遡りますが、その頃Photoshopというツールの基本機能を使うだけで珍しい画像の出現に驚かされ、それだけで自分のオリジナルアートを創造したような錯覚に陥ったものです。実は、そこには落とし穴があると同時に、今から考えると大きな魅力が潜んでいたと思われます。
その時には気がつかなかった
大切なデジタルアートのポイントは、ある程度の予測不可能性があり、作者自身が、他の誰かと同様に、その結果に驚くということが重要だったのです。
素材画像01
私が自宅で撮った写真
素材画像02
ネットから取得した著作権フリーの写真
作品画像例01
2つの素材画像の単純な加工で得た画像例01
(素材画像01を極座標変換⇒素材画像02の一部を別レイヤとして差の絶対値モードで重ね合わせ⇒カラーバランスで色を調整)
作品画像例02
2つの素材画像の単純な加工で得た画像例02
(素材画像01を極座標変換⇒素材画像02の一部を別レイヤとしてスクリーンモードで重ね合わせ⇒色相と彩度を調整)
デジタルアートが、一部の学者の研究対象だった頃を除いて、デジタルアート活況のこの状況は、一体いつから始まったのでしょうか。
1990年にMac環境で、初めてPhotoshop(*1)が使えるようになったのがその発端です。3年遅れの1993年に発売されたWindows3.1環境上でもPhotoshopが使えるようになったことで、その環境が整ったと言って良いと思います。
つまり、デジタルアートは、誕生からまだ20年程度しか経過していないのです。
何がそれまでと変わったのでしょうか。
プログラム通りに計算し答えを出す単なる道具から、人間の創造過程に関わる部分にまで、支援機能を拡張することができるのではないかと認識されだしたことが発端です。
カラーディスプレー上で、ビジュアルグラフィック機能を手に入れ、Photoshopで画像操作した効果を即座に目で確認でき、その結果を見ながら次の思考に結びつけることができる
インタラクティブ(相互作用)性とリアルタイム(即時)性
が手に入ったことがその重要なポイントです。
言いかえれば、
デジタルアート作品を創るということは、たった一人で作品を創ったとしても、
常にツールとコラボレーション(共同作業)
だということです。
こんな短期間のうちに、既存のアート分野にこれだけのインパクトを与えたのにはそれだけの理由があったということです。
これらの、作者とツールのインタラクティブな関係は、従来アーティストが頭の中で実行してきた構成検討などの多くの思考サイクルを、効果的に実施する効果をもたらしています。その結果として、従来技法よりも経験の積み重ねの頻度を格段に増やして、アートのスキルとセンスの醸成にも寄与するのではないかと思います。
今のインターネット環境では、無数の過去の作品、同時代の作品に即座に触れることができる状況も整い、多くの良い作品に触れることも可能です。すごい時代に入ったものだと思います。
Photoshop(*1):写真の加工編集ソフトとして定着しながら、デジタルアートの面白さを身近なものした画期的なソフトです。簡単な画像の編集機能を実行するだけで、一瞬にして今までには考えの及ばないような驚きの造形や情景が出現し、多くの人が驚かされたのではないかと想像します。
作品画像01
■題名 「未来の予感」(サイズH117xW91cm 和紙にプリント)2013年制作
■第3回フェイ版画大賞展(FEI Print Award)準大賞受賞作品
・会期:2014/9/16〜2014/10/5
・主催・場所:FEI Art Museum(横浜市、神奈川)
作品画像02
■題名 ‘Feeling of Puberty’(邦題「思春期」)(サイズH120xW90cm 和紙にプリント)2013年制作
■International Biennial Print Exhibit: 2014 ROC(第16回台湾国際版画ビエンナーレ展)入選作品
・会期:2014/08/16〜2014/10/26
・場所:国立台湾美術館(台中市、台湾)
突然に出現したデジタルアートは、当然のことながら、従来のアート分野に大きな葛藤を巻き起こすことになりました。
前述したように、コンピュータ上のツールが、アート作品の制作プロセスのみならず、創造の思考プロセスそのものにも影響を及ぼし始めていることになれば、手作業や絵筆で制作してきた版画や絵画の既存アート分野は黙っていません。新しいアートと称して、今までとは全く肌合いの違う作品が最先端のコンピュータで作られたとなれば、ベテランの作家ほど受けるインパクトと反発は大きかったはずです。その取扱いに苦慮し、戸惑いを見せたことは言うまでもありません。
実は、色々な美術団体で議論を呼び起こしているデジタルアートをどう考え、どう受け入れていくかという議論は序章に過ぎません。
今までは、ツールの種類により、明確にアートの分野とジャンルを油絵、水彩画、日本画、版画、立体、写真などと分けてきて特に問題を生ずることはありませんでした。それが必然であるかのように、我々も錯覚してきたものです。
従来技法の版画では、手作業による彫りの習熟度をアート性の評価と同等に重んじてきた歴史がありました。しかし、デジタルアート作品が美術団体展に出品されるようになると、従来の評価基準の見直しが迫られることになります。そんなわけで、従来から内在するアート分野とツールの問題を掘り起こしてしまったということです。
デジタルアートの議論を更に突き詰めると、作品の評価は、アート性、つまりアートとして斬新で明快なコンセプトがあるかが問われるべきで、ツール、技法の習熟度や完成度を問われるべきではないという、当たり前のことが疎かになっていたことも浮き彫りにしました。
また、デジタルアートが獲得できないもの…素材との格闘、手作り感、温もり感など…が逆に見直されるきっかけにもなっています。
いずれにしても、新しいツールが出現すれば、その特徴を生かそうと新しいアートがうまれて来るのが必然です。それも、誰もが想像できないほどに機能が高度化し、進化しているとなれば、これから新しいソフトが出現するたびに、今まで見たことがないような斬新なアートが出現するであろう期待がますます膨らみます。ますます目が離せなくなります。
作品画像03
■題名 「何事もなかった」(サイズH117xW91cm 和紙にプリント)2014年制作
■第82回版画展(日本版画協会)入選作品(準会員として)
・会期:2014/10/05〜2014/10/19
・場所:東京都美術館(上野、東京)
展示風景01
■中央に2段で並ぶ縦作品が私の作品、周囲には従来技法の版画作品が並ぶ
■題名 「何事もなかった」(下)と「世間に鬼」(上)(共にサイズH117xW91cm 和紙にプリント)2014年制作
■第82回版画展(日本版画協会)第19室
わが美術団体旺玄会(一般社団法人)では、10数年前からデジタル技法コンピュ―タ・グラフィック(CG)で制作した作品を版画グループとして出品する作家がいて、コンピュータで制作したアートをどう取り扱うのか、議論を呼んでいたようです。美術団体の中では、この議論は早く相当に先進的だったと思います。
そんなことも知らない(知る由もない)私が初めてデジタルアート作品をデジタル版画として出品したのが第70回記念旺玄展(2004年)のことです。先輩から、「旺玄会は、デジタル作品であろうと、作品が良ければ評価しないはずがない。それを評価しない美術団体があるとすれば、廃れていく道しかない。」と出品を勧めてくれたのです。
しかし、実際には、そこには、まさに火中の議論が待ち受けていました。従来技法に永年関わってきた作家の多くは、「デジタルアートはパソコンが作ってくれるもの」で、絵筆で描いた絵画とは異質のものだ。同じ土俵で評価されること自体が納得できない、と言われたことも一度や二度のことではありませんでした。
しかし、いち早くデジタルアート(版画作品と見なした)の出品を受け入れ、アート性を評価するという原点で作品を見ようとしてきた先見性のある旺玄会の土壌は注目に値します。旺玄会の創始者牧野虎雄以来の伝統である「画の探求」の原点を見る思いがします。
その結果として、他の美術団体よりもいち早くデジタルアートを受け容れる環境を整備し、アート性の高いデジタルアートについて積極的に評価してきた実績の積み重ねは言うまでもありません。
作品画像04
■題名 「堂々めぐり」(サイズH162xW112cm キャンバスにプリント)2014年制作
■第70回旺玄展奨励賞受賞作品(会員として)
・会期:2014/05/22〜2014/05/30
・場所:東京都美術館(上野、東京)
展示風景02
■正面の左側の作品が私の作品、右には銅版画2作品が並ぶ
■題名は作品画像04を参照
■第70回旺玄展第10室
・会期:2014/05/22〜2014/05/30
・場所:東京都美術館(上野、東京)
前述したように、デジタルアートは急速に進化し、範囲が拡大しています。例えば、デザインやイラスト、CG、映像、アニメーションなどの商用アート分野では、すでにデジタル技法がなければ制作現場が成り立たないほどに活用が進んできました。
3Dの世界も、今や急速に普及が進み、3DCGが美術学校のカリキュラムに組み込まれたり、3Dプリンターが産業分野での活用を超えて、アートや趣味の分野にまでに影響を及ぼしはじめているのは、周知のところです。
一方、ファインアート(自分の好み、目的で追求する芸術を指す。デザインやイラストなど顧客の求めに応じて制作する商用アートと区別する)の分野でも、アート性に優れた作品が出始めており、ここに来て良い意味でも悪い意味でも特別視され続けてきた状況が一変しつつあります。
ここでは、これらのデジタルアートのすべてを取り上げるわけにはいきませんので、この10年の私の経験を通して得た知見をもとに、平面作品を中心に、アナログ技法との対比、特徴などを考察しながらデジタルアートを概観してみたいと考えています。
これからデジタルアートをやってみたいと考えている方、デジタルアートをやり始めたが、どうも今一つ作品の方向がつかめない、などお悩みの方に、この講座が少しでも助言になれば幸いです。
作品画像05
■題名 「今、そして未来」(サイズH197xW147xD120mm)未発表
■ABS樹脂、熱溶融積層方式3Dプリンター使用 2012/08制作
■上段:3Dプリント出力、下段:3DCGで制作した3Dモデル
これから、下記項目について、1,2ヶ月に一度程度の頻度で連載して行く予定です。今回は、第1回として、「なぜ今、デジタルアートなのか」を取り上げましたが、次号以降は、次のような内容を予定しています。ご期待いただければと思います。
第2回 どんなデジタルツールの進歩があったのか
第3回 デジタルツールを使ってアートを表現するには、どういうツールを揃え、どういう
心構えでステップアップを踏めば良いか
第4回 今後はデジタルアートにどういう可能性があるか? 現代アートの流れの中での
デジタルアートはどういう位置付けになって行きそうか
以上
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